湯河原・真鶴の野生生物を観察し、写真に記録すること。
「白銀林道/野生生物探検記」2

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ガードレールの切れたところにあるのがリスの橋の桑の木。始めそのほぼ真下にビーチベッドを広げた。

●リスの住む森


3、二度目の出合いまで

 だが、二匹目のリスに出合うまで3、4ヶ月もの時がかかった。
 エビフライはあちこちに発見できたが、あのかわいいリスの姿を見ることはなかった。それどころか、林道通いは以前よりぐっと増したのに、遠くの影さえとらえられなかった。
 リスの巣らしきものも2、3個発見する。
 リスの巣の写真が、これも守山リス研究会のホームページに紹介されている。それよると、リスは、松や杉など針葉樹の木の上に、バレーボール大の小枝で組んだ球状の巣を作り、その中に寝袋のように、檜や杉の樹皮の甘皮を剥いできて敷くらしい。
 しかし、その巣へ出入りするような姿もなく、見つけ出す次の手がまるでなかった。一つ考えられるのは巣やエビフライのある場所にテントでも張り、幾日も隠れて見張ることぐらい。
 しかし、いくらリスを見たいからといっても、あくまで散歩の延長であり、多くは3、4時間程度の探索である。なかなかそこまでのめり込めない。写真目的でもあればやってみてもいいが、それが可能なほどの望遠レンズや機材もないから、カメラは携帯していても、撮影はまず無理だろうと思っていた。
 リスを見たいし、どんな生活をしているか知りたいが、すっかり手づまり状態になる。
 そんなある日のこと、林道のすぐ脇で突然「キュルルル」と大きな鳴き声がし、ガサゴソと何者かが動く騒がしい音がした。
 目でそれを追うと、木々の間を飛び移る影が。リスだ!
 少し離れたところでも何かが動いて音がし、小枝が揺れる。2匹以上いるようす。檜の小木の葉に隠れて姿が見えないが一匹の動きだけはとらえた。
 谷側に見つけたのだが、枝を伝ったり飛んだりし、どんどん谷を下って逃げる。ところが、50メートルほど離れたらいったんそこで止まり、枝の上でしばらくじっとしたり、向きを変えたりと不思議な行動をとる。ここまでくればもう平気ってっことだろうか。
 それが数分ぐらいあってから、木をゆっくり降り、ブッシュの中へと消えてしまった。
 探し求めてやっと出合えたリスである。複数だし、しかも鳴き声まで聞こえて大漁気分だ。
 出合いはしかしこれも偶然で、リスがうっかりこちらに気づかず、移動中に鉢合わせしてしまったからと思えた。
 そして、その後より注意して歩き、2、3か月の間に2回の出合いがあった。でも、どちらも一瞬のこと。また、ずっと遠かったりで、最初の出合いのようにじっくり目の前で観察できることはなかった。それどころか、だんだんあれは奇跡のようなできごとで、これから先もあんなことはもうありえないだろうと思うようになっていた。
 だがしかし、また別の偶然、信じられないできごとが起ったのである。


4、ヤマグワの実を食べるリス 

 
 若葉のみどりが目にやさしい、翌年6月初旬のこと。
 天気もいいし、ノートパソコンとビーチで使う簡易ベッドをクルマに積んで林道へ出かけることにした。私はその頃ボートのことや釣りの原稿を雑誌などにときどき寄稿するライターで、そもそもヒマなのである。
 外が気持ちよさそうだと、自宅の部屋で机に向かっていてもソワソワ落ち着かない。なら、思いきって森の中で仕事をしてやろうと思ったのだ。林道は半日いても一人も合わないようなときがあるぐらい静かだし、もし誰かに見られても、それほど恥ずかしくもないだろうと思ったのだ。
 我が家は海から歩いて3分ほどの高台にある。わたしの部屋から南東に小さな港が見下ろせ、その先には伊豆大島や新島などが浮かび、南に伊豆半島、西に箱根の外輪山が見える。
 晴天だと、部屋からでも海面に太陽がキラキラと反射し、直視できないぐらいまぶしい。都会の釣り好きなら気がふれそうなほどうらやましい環境だろう。
 ところが、以前はスキあらばサオをかついで家を飛び出し、ボートで釣りに出かけていたのが、今は反対方向の山へ行く。
 釣り師ならまず考えられないことである。
 私だってごく最近までそんなふうになるとは思いもよらなかった。でも、海辺に住み、ボート釣り歴20数年、たいていの魚は釣れるようになり、釣りたい病もだいぶ落ち着いてくる。海の景色だって、そう毎回は感動していられない。
 逆に、森の中にもボートで初めて沖へ釣りに出たときのような、新鮮な発見、感動があることに驚いたのだ。
 森の中に海と同じぐらいの野生が残っていて、小さなものが大きなものに食われる、弱肉強食の世界があった。森の動物も、季節とともにエサが変わり、エサのあるところに現れるという自然の摂理があったのだ。
 この日はまさにそのことに気付いた記念日だったかもしれない。
 林道へ入り、道幅の広いところを見つけ、ベッドを広げてリクライニングの角度を調整し、まずはどっかと座り込んだ。
 空は青く、陽光がキラキラと木漏れ日となって揺れている。寒くもなく、暑くもない。木々の葉はまだ若葉を残していて、気分は最高。しばらくは仕事になるはずもなく、ゆるやかで贅沢な時間に身をまかせていた。
 ところがである。
 たぶん30分も経たない頃だったろうと思う。何かの影が頭上の木の枝をよぎった。
 なんと、リスである。
 リスは、山側の一本の木を登り、枝を伝って海側の木へ飛び移った。そして、一気にその木を駆け降り、ブッシュの中へ消えていったのだ。
 ところが今回はそれで終わらなかった。驚いたことに、そいつがまたすぐどこからか現れ、駆け降りた木を今度は逆に上るではないか。
 そして、途中で動きを止め、体を伸ばして何かを採って食べ始めた。
 リスは林道にのびた木の枝の上。リスから真下の道路上の私は丸見えである。またもやベッドに横になったまま石のように固まって観察したが、この木は赤や黒の小さな実を付けているヤマグワだった。リスはこちらを気にしながら、枝を自在に飛び移り、より熟れたものを探しているようである。
 リスの身軽さは予想をはるかに超えていた。
 枝から枝へと、1メート以上わけなく飛ぶし、細い枝の先端まで上り、両手を放して実を採る。ときに後ろ足で枝につかまり、逆さになってブランコしながらエサを食べている。まるで小鳥だ。
 また、信じられないことに、幹を垂直に降りるときも、頭を下へ向けたまま登るときと同じぐらい速く走る。
 このショーはわずか10分ほどだったが、たった一人の観客の目の前に展開した、なにか夢物語のようなものだった。いくら探しても見つからなかったリスが、期せずして桑の木の下でただ寝転がっているだけで出てきたのである。
(つづく)

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