湯河原・真鶴の野生生物を観察し、写真に記録すること。
怖い天然砥石の世界を覗いてみた

7:3_8502
右から丸尾山白巣板(巣なしコッパ、この中では最も軟らかい)、八木の島浅黄(硬口、最終仕上げも)、馬路山合砥(千枚?硬口)、大突山浅黄(最終仕上げ砥)


包丁の切れ味をよくし、美しく仕上げるにはどうしてもより細密な仕上げ砥石が必要となり、色々調べているうち天然仕上げ砥石が引っかかってきた。たまたま貰い物の天然青砥が一つあったことが、天然砥石を知るきっかけになったのだが、いま一般家庭に一個はあると思われる砥石は研磨剤などを固めた人造砥石である。なので、ほとんどの人が天然砥石の存在など知らないだろうと思う。店にも売ってないし。私も手持ちの青砥を調べるまではまったく意識がなかったし、ネットで調べその性能が分かるようになってもまだ一部の人だけのもので、高価だしとても手を出せるものではないと思っていた。

だけど、いろいろ調べていると人造砥石が広まったのは昭和40年ぐらいからで、たぶん戦後10年間まで農家の鎌や包丁は天然の中砥か荒砥を使うしかなかったようなのだ。天然の中・荒砥は仕上げ砥と違い日本各地で産出されたし、日本の人口の8割が第一次産業に従事してた戦後すぐの頃はこれらが農家の鎌を研いだり、程度のいいのは大工の鉋刃を作ったりしていたのではないだろうか。いまでもそれら古いラベルを貼られた天然中砥がネットで安く売りに出されたりしているのだ。

ただ、戦後が終わりになると性能のいい人造砥石が天然物を凌駕し、というか天然の中・荒砥はデカくて重いし、減りが早いし、研ぎ下ろす能力が安定しないのもあって、すぐ人造に負けてしまったのだ。だけど、それまでは鎌や包丁のある家庭には必ず一丁は天然砥石があったのは間違いないのだ。天然砥石は古くは縄文時代の石器を研いたりするのにも使われたようで、人間との長い歴史があったのである。

そのぐらい親しんできた天然砥石ではあるが天然の仕上げ砥石はまるで別物、というか世界中でも産出の例がほとんどなく、海底のプレートがいくつも集まる日本だけのしかも京都周辺に限られた物。2億5000万年ほどの昔、赤道付近の海底で産声を上げた砥石が、風化した火成岩や粘土質の泥、フラクトンの死骸などと合わさり、1000年で1ミリ成長しながら京都の地まで移動し隆起したのである。日本は世界の火山活動の何割(?)かがある地質であるから、その変動で日本の京都、若狭田村山、滋賀の一部だけにだけど、高品質の仕上げ砥石が現れたのだ。

仕上げ砥の最も古い記述が見られるのは鎌倉時代だそうだが、使われだしたのはそれからもっと遡るだろうと思う。この仕上げ砥石がたたら鉄などと合わさり、日本の刃物文化が発達していったのだ。鋸、鉋、鑿、鉈、鋏などはもちろん、槍や日本刀、包丁研ぎへと切れ味重視の刃物全般に使われたのだ。この天然砥石、いろんな刃物のプロが言ってるけど、中砥までは人造が勝っているが、仕上げ砥の人造はいまでも天然にまったく敵わないとのこと。砥石は粒度で荒・中・仕上げと分けられるけど、荒は400番ぐらいまで、中砥は2000番まで、中・仕上げ砥は5000番まで、それより上が仕上げ砥で、人造では12000番の鏡面にできる最終仕上げ砥があるが、最近は30000番というとんでもない細密で高額ななものが出てきたりしている。

天然仕上げ砥石の粒度は7000番ぐらいからと言われているが、そもそも人造のように均一な構造をもってないし、研ぐほどに粒子が細かく砕けてくるようで、切れ味の良さ、長切れする刃、傷の小ささなどが挙げられている。天然仕上げ砥石が産出される山には砥石を含む15メートルほどの厚みの層があり、上から天井巣板、千枚、戸前、合いさ、太上、敷巣板など、おおまかに10数種類の石質に分類されている。また、京都の砥石の産出される山ごとに性質や能力が違うから何百種いや何千種もの個性をもった砥石があるということなのだ。これを極めることはまず不可能なのだが、これに詳しい特別な人達が今回かなりいることを発見したのだ。

たとえば、「削ろう会」なる、大工が鉋で薄削りを競う大会があり、全国大会や地方大会が開催されているが、この鉋の最終仕上げはほぼ天然砥石。最高3ミクロンというありえないような薄削りをするには2ミクロン以下の刃先でなければダメだろう(?)。こんな薄い刃で丈夫なのは天然仕上げ砥でしか作り上げられないのだ。天然砥石の面をそれこそ2ミクロン以下の真っ平らな平面にし(これが大変)きれいに研ぎ上げるのだ。この人たちの天然砥石の知識は半端じゃない。

ま、包丁は鉋刃と違い平面研ぎでなく曲線が多いので接地面の少ない点の研ぎになるから、また違うのだが、鰹節削り器の鉋刄を研ぐため、古道具屋で800円の鉋と300円の台直し鉋を買い、ネットで勉強しながらサビサビのを研ぎ直したりしているうち、こんな危ない世界を垣間見たのである。そもそも天然砥石の研ぎ上がり写真に鉋刃が使われていることが多いので、すっかり鉋にはまってしまったのだ。中古で買った鰹節削り器は元は15000円ぐらいするものらしいが、800円の鉋は元大工が使ってたようなのを買って直したから、ものすごくよく削れ、鰹節削り器の鉋がとてもちゃっちく見える。でも、研げて刃出しの調整さえ上手くすればこれでもシャーシャー削れ、前回1/4と言ったけど、1/8ぐらいに短縮されたように今日出汁をとったとき思った。100g、3、4分でいけるね。

写真はオークションとネット販売で安いのを選んで買った天然砥石で、右から丸尾山白巣板(巣なしコッパ、この中では最も軟らかい)、八木の島浅黄(硬口、最終仕上げも)、馬路山合砥(千枚?硬口)、大突山浅黄(最終仕上げ砥)。ま、グレーばかりで形も整わず見栄えが悪いが、左三つは硬質の仕上げ砥で、大突山浅黄(最終仕上げ砥)は鏡面にできるかもと駄目元で入札したら、なんと大正解。硬くて使い勝手が悪いから安いんだね。天然砥石って硬くてまったく減らないから、どれも一生モノ。昨年買った人造中砥がもうちびて使えなくなったから、初期投資は1万円前後でも案外安いかも。5千円の出刃包丁が天然砥石のおかげでまるで高級包丁のようによく切れ、光っておりまする。だけど、大きくて美しく見栄えがいい砥石はすぐ7、8万し、100万のものがソールドアウトになってたりするからそら恐ろしい。天然砥石にはまった人は最低でも20個ぐらい持っているようすだから益々警戒しなくてはならないね。見栄えがイマイチでも性能が同じなら安いのでいいじゃん。

私の研ぎの順番は、まず人造荒砥やダイヤモンド砥石でサビや刃欠けを取り、人造中砥でその傷を小さくし、青砥を経由したりしなかったりして天然白巣板で傷が見えなくなるまで小さくし、馬路山合砥で磨いて、大突山浅黄でピカピカに光らせる、って手順。早いのは一つ1、2分だからそう手間は掛かりませんて。なので、一通りの工程分は手に入れたし、基本は美味い料理を作るためなので、これで打ち止めにし、もし追加しても一年に1個ぐらいにしておきたい。

7:3_8474

この料理は孫サバをオイルサーディン風にしたものに、醤油麹をかけたもの。イワシと違い、旨味が足りないし塩も少ないので、一工夫が必要だ。でも、なにかいい方法がありそうに思える。大きなサバが釣れてるのに、わざわざ小さいのが食べられないかトライしてるのだから、結果が欲しいね。
スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
某ブログ、楽○です。

ふらふらと覗きに来てしまいました。^ ^
まだ新しい記事からここまでですが、やっぱりというかかなりの手練れとお見受けいたします。
研ぎ、また砥石の事もよく勉強されていてとても読みごたえのある記事だと思います。
これより前の記事も読ませていただきます。(^-^)/
2016/07/08(金) 14:35 | URL | 楽人 #-[ 編集]
楽人さんどうも

コメント長く気づきませんで失礼しました。このブログ、タイトルにあるように野生の観察が中心だったのですが、いつの間にやら料理ブログとかしてしまってます。
しかもいまは包丁と砥石。もう少し勉強させてください。よろしくです。
2016/07/28(木) 05:30 | URL | take #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://takezoumaru.blog.fc2.com/tb.php/232-64391bfe
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック